日本でもようやく動き出した「オーガニック給食」について、あなたはどんなイメージをお持ちでしょうか。
子を持つ親たちにとっては無視できない給食問題ですが、これまでの給食の何が問題で、なぜオーガニック給食への転換がすすめられているのか、理由を説明できる人は少ないかもしれません。
そこで今回は、東京の江戸川区・江東区の公立保育園や学校のオーガニック給食を市民レベルで精力的に推進するメンバーの一人、中 このはさんに、オーガニック給食の背景や取り組みをうかがいました。
Contents
- ひがし東京給食アクション
- そもそもオーガニック給食って、どんなもの?
- 都市と地方の取り組みの違いや難しさ
- 選挙前には立候補者へのアンケートも
- ひがし東京給食アクションが目指すもの
- オーガニック給食に変えたい!と思ったら
- ひがし東京給食アクションへのアクセス
ひがし東京給食アクション
そいみん:中さんが所属する「ひがし東京給食アクション」の目的と活動内容をご説明ください。
中:江戸川区・江東区の公立の保育園、学校給食をオーガニック給食に押し進めていくために、行政や学校、PTAに「オーガニック給食とは何か」「なぜ今必要なのか」を広める活動をしています。また実際に署名活動をして、行政にもアプローチしています。
そいみん:「江戸川メンバー」についても、簡単にご紹介ください。
中:現在は、有志の母たちが仕事や育児の合間をぬって集まり、活動をしています。少しづつ多方面の地域に活動を共にしてくれるメンバーが増えてきてはいますが、これからは学校のPTA本部やお父さんの会、地域のサークル活動なども巻き込んでいくつもりです。
そいみん:中さんが、このグループに参加しようと思ったきっかけは?
中:学校給食のオーガニック化に興味を持って、同じような思いで活動されているグループを探しているタイミングで、ひがし東京給食アクションが開催した 映画「いただきます」自主上映会のフライヤーを目にしたことがきっかけです。
そもそもオーガニック給食って、どんなもの?
※写真:給食をすべて有機米にした、千葉県いすみ市のオーガニック給食(デジタル東京新聞より)
※写真:NPO法人メダカの学校「オーガニックランチ」(大人の量)
そいみん:オーガニック給食って、どんな内容ですか?
中:オーガニック給食という名前が広がったのは、わりと最近ではないかと思います。それ以前にも、いろんな名前の給食がありまして、中身はだいたい一緒。
なるべく地産地消のものを使う、規格外 (おいしいし、栄養もたっぷりあるのに捨てられてしまう野菜)を積極的に取り入れる、季節の旬のものをいただく、動物性たんぱく質に頼らないなどを掲げています。
そいみん:これまでの給食を変えなければならない理由とは?
中:学校給食の献立は「学校給食摂取基準」に沿って考えられています。児童生徒1人、1日3食のうち1回あたりの食事として、学校給食において摂取が期待される栄養量を示したものです。
日本の学校給食は、他国に比べてとても優れていると言われています。5大栄養素をバランスよく摂れるように考えられ、しかも人数分きちっと揃います。また食育の観点から、食事のマナー指導や偏食・過食などの個別指導がおこなわれる場合もあります。
しかし日本の経済状況、核家族化、高齢化社会などから、子供が必ず1日3食摂っている割合は年々下がり続けています。また3食きちんと食べている、と答えているなかには、ほとんど栄養の無い菓子パンだけ、カップラーメンだけという場合も少なくないのです。
そいみん:それは、聞き捨てならぬ問題ですね。
中:そのような状態で、学校給食が1日に摂取する栄養素・栄養量のうちの3分の1だけでは、発達過程にある児童生徒にとって不十分ではないか、という声から広がったオーガニック給食なのです。
学校給食で1日に必要な分の栄養素に近いぐらい摂取出来たら、児童生徒たちが身体ともに健全に成長するのではないだろうか、と熱い視線が集まっています。
そいみん:個々の家庭環境の違いもあるから、なかなか難しいところですよね。給食の献立で1日分の栄養素を1食で補うと、逆に脂質や炭水化物がオーバーする子もでてくるのでは?
中:何の食品から、エネルギー源や体の組織を作る栄養素を摂るのかは、一通りではありません。学校では炭水化物(糖分)が体のエネルギーになり、動物性タンパク質が体の組織を作ると教えられます。
しかし糖質を抑え、植物性のたんぱく質でも十分にエネルギー生成や体の形成は可能です。
十分に栄養を吸収するには、食材同士の組み合わせにコツがあります。栄養のスペシャリストである栄養士の先生が献立を作つくる学校給食を、オーガニック給食に進化させることが望ましいです。
都市と地方の取り組みの違いや難しさ
※写真:NPO法人メダカの学校 代表 中村陽子氏主催の講演会
そいみん:いま、オーガニック給食を広める動きが全国的に加速していますが、江戸川区のような都会と、地方の自然豊かな場所でのオーガニック給食への取り組みは、いろいろな違いがあるかと想像します。
中:まずは、やはり輸送コストにあると思います。近隣に農地がたくさんあれば、それだけで地産地消がかないます。あとは行政がオーガニックへの転換を後押ししてくれるか、慣行農業から有機農業への転換期間中の作物を買い上げる仕組みを作ってくれるかも大きなカギになります。これは地方であっても都市部近郊であっても変わらない課題です。
そいみん:具体的な違いや、難しい点、逆に希望がみえる点など、教えてください。
中:自然豊かな土地では、学校の授業やお友達・家族との関わりの中に「農業」であったり「動植物に触れる機会」が多いですよね。「農業の仕組みを変え、人間にも他の動植物にも優しい農業に転換していく。そのような農法で作られた食料で作られたのがオーガニック給食」ということが、想像しやすいと思います。
しかし、都会に暮らしていると「自然を守る」ということにピンとこないかもしれません。そのかわりに都市部では、頻繁に次世代の食事情やフードテックの講演会や展覧会が開催されています。
昨年末に東京ビッグサイトで行われたエコ事業展覧会には、社会科見学の小学生も来ていました。学習の機会がたくさんあるのは、都市部の強みでしょうね。現在起きている問題を深堀して、環境問題や人権問題に取り組むなかで、自分たちの「農と食」について考える機会が出てくると思います。そこからオーガニック給食に興味を持ってもらえたらいいなと考えています。
そいみん:地産地消で運送費が減り、食品ロスを考慮してもなお「オーガニック食材は高くつく」と考える方が多いと思いますが、そのあたりはどうなんでしょうか。
中:現在オーガニック給食を実施している自治体の中には、まずオーガニック給食を始めると、どのくらい給食費が増えるのか試算したところがあります。これまでよりも少ない費用で賄える試算になった、という自治体もあるんですよ。
たとえば、ビタミンやミネラルの摂取不足は深刻化していますが、これらは植物性のもので十分に摂取できるので、動物性のものを減らし植物性のものをふんだんに取り入れることで、給食費のコストを下げることができます。
また素材が新鮮で旬のものであれば、調味料も基本的なものをそろえるだけでたくさんは必要ありません。調味料の原材料も、遺伝子組み換え品であるとか添加物だらけとか健康を害しかねない商品もたくさんあります。調味料の原材料まで調べ、より安全な調味料を使うこともオーガニック給食では大事にしています。
そいみん:栄養もあってゴミも減り、給食費もあまり変わらないなら、逆にお得ですね!
選挙前には立候補者へのアンケートも
そいみん:オーガニック給食の更なる推進は、国、自治体、学校、保護者、生産者が一緒に考えていくことが大切と聞いていますが、江戸川メンバーのみなさんも、区長への手紙や区議会への陳情を出して、区議と面談を重ねてきたそうですね。
中:子供を持つ親、区のトップや学校長などがすでに力をあわせてオーガニック給食を推進する運動となっていますが、政治を動かす力も必要です。選挙前に、立候補者にオーガニック給食に対する考え方のアンケートをとりました。
選挙前のアンケートを提出してくださった方は、そもそも地域の農や教育・子育てなどに興味関心がある方、小さい派閥ないし地域の小さな声も拾ってくださるような方だけにとどまったように感じます。
これまでの区政は、どちらかというと有権者にばかり向いていました。しかし江戸川区では今年度「えどがわ50の子育てプラン」を策定。日本は少子高齢化がどんどん加速、江戸川区に限らず、高齢者を支える大事な若者を増やすことが緊急の課題です。
加えて心身ともに健康であることも大事。オーガニック給食に限らず、有権者でない子供たちが生きやすい政策が打ち出されることを期待しています。
ひがし東京給食アクションが目指すもの
※写真:ひがし東京給食アクションのフェイスブックより
そいみん:江戸川区のオーガニック給食については、いつ頃どんな進展を目指していますか?
中:まずは「2年以内に、オーガニック給食のモデル校を始めます」と区長か教育長から宣言をいただきたいです。実際に始めてみて、子供たちの学習や健康・生活態度などに違いが見られたら、どこの学校も取り入れていくでしょう。
並列して現在区内で仕入れたものを給食に使う、というルールがあります。そのルールを東京都内・関東圏内で仕入れたものを給食に使う、と変更してもらえるよう声を上げていきたいですね。
そいみん:世界では、子供たちの成長を考えてオーガニックを取り入れているだけでなく、地球環境問題が考慮され、学校給食が展開されています。しかし、日本ではまだオーガニック農産物への関心がオーガニック先進国に比べると薄く、需要は高くないですよね。
中:自然の恵みを活かした農法が有機栽培であり、いかに土を豊かにしていくかを重要視しています。化学肥料や農薬を使い、多く収穫することを目的とした慣行栽培(一般的な農作物はこれ)とは考え方が全く異なります。オーガニック食品というのは、栽培から加工まで、自然の力のみで作られた食品のことです。
食品添加物が問題視されていますが、今、日本で市場に出回っている食品は、食品衛生法の下で安全性が確認されたものであっても、海外では危険として使用が禁止されている添加物が使われている場合があります。オーガニック食品の場合、添加物で危険な目にあうリスクが極めて低いです。
また、オーガニックなら遺伝子組み換え技術を使用しない点もポイント。数多くの研究機関が、遺伝子組み換え技術について、体に及ぼす影響、自然環境への影響など、問題点を指摘しています。
政府機関が安全とする根拠は、遺伝子組み換え技術を使う研究機関が行った、たった90日間の実験データであったりするのです。一生食べ続けていたらどうなるのかは、誰にもわかりません。
そいみん:残留農薬で健康を害する可能性を低くすることができるもの、オーガニックのメリットですよね。
中:有機栽培で作られた野菜は、作った農家さんの情報を紹介しているケースが多くなっています。どこで、どんな人が、どんな風に栽培したのか分かることは、安心にもつながります。
今後も地球で、生きていくために本当に大切なのは、汚染の無い水・大気・土、微生物や植物。だからこそ、それを守り、取り戻すために、今オーガニックが注目されています。
農業や、食品のあり方を見直して、持続可能性のあるオーガニックがスタンダードである未来を一緒につくっていきましょう!
オーガニック給食に変えたい!と思ったら
そいみん:市民レベルであっても、江戸川メンバーのように、地元の有志でチームを立ち上げ、政治にまでアプローチできることがわかりました。もし、この記事を読んで「自分の街もオーガニック給食にしたい!」と思った方に、アドバイスを!
中:住まわれている地域に、同じような思いで活動をしているグループがないか、探してみるといいと思います。もし見つけられなくても、大丈夫。全国各地に活動をしているチームがあります。
オンラインでつながって情報を共有してもらう、その情報を知り合いと共有していくと、いつの間にか同じ思いの仲間ができ、先に動き出しているチームと同じようなアクションをできるようになります。
そいみん:地域の農家さんを大切にするとか、食卓を一品でも地産のものに変えるとか、給食だけでなく、私たちはまず足下から個々にできることがありますよね。
ひがし東京給食アクションのフェイスブックには、活動報告以外にとてもわかりやすいコラムがあり、オーガニック給食を超えて、生物多様性の勉強にもなると感じました。
中:コラムでは、現代の食や農に潜む危険性や、健康に生きること、体にも精神にも影響を与えることなどを、読んでくださる方々に知ってほしいという思いで書いていました。
しかし、こちらから一方的に危険を叫んでみても、果たしてオーガニック給食とはどんなものか興味を持ってくれて、このページを開いてくれた方にほしい情報を届けられているだろうか?という疑問が出てきました。
次号からは、「給食」や「食と農にまつわる市民運動の成功例」「オーガニック給食の持つポテンシャル」など、給食を超えて地球を救うことを伝えられるようなコラムを目指していきたいです。
ひがし東京給食アクションへのアクセス
大切な子供たちが将来健康に過ごせているか、不調を感じながら過ごしているか。それを考えて仕組みを変えていけるのは、今生きるすべての人かもしれません。
「誰かが考えてくれる」「自分にはそんな時間はない」ではなく、一人でも多くの人がオーガニック給食に携わることで、子供たちの未来を明るくしてあげることができるはずです。(by 中 このはさん)
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