動物愛護や環境保全につながり、SDGsの目標達成にも貢献するとして注目を浴びているヴィーガンレザー。
動物の副産物を使用せず、通常のレザーのような見た目と質感のあるバッグやジャケット、スニーカーなど、アパレル各社がオリジナル製品を次々と発表しています。
特に、身近にある植物や果物を使用したサステナブル素材のヴィーガンレザーは、ビーガンも気になっているはず。
今回は、ヴィーガンレザー (前編) として、ヴィーガンレザーの種類や特徴、実際に販売されている製品の事例や手入れ法を解説します。
【目次】
- ヴィーガンレザーをはじめとした皮革の種類
- 天然皮革
- 合成皮革
- 人工皮革
- 植物皮革
- ヴィーガンレザーの特徴
- コンセプトとして動物愛護や環境配慮を掲げるブランド例
- FOSSIL (フォッシル)
- 良品計画
- i plant.
- そのほかのレザー
- キノコ
- パイナップル
- マンゴー、バナナ
- ブドウ
- ヴィーガンレザーのお手入れ法
- まとめ
ヴィーガンレザーをはじめとした皮革の種類
革製品の種類は多種多様、それぞれに特徴、メリットやデメリットがあります。
天然皮革は、 牛革や豚革、羊革など、その名の通り動物の皮からできているもの。
一方、動物性の材料を使わずに作られるヴィーガンレザーは、見た目や手触りを動物の革に似せた素材で、大きく分けると3つのタイプがあります。
それぞれ、特徴を見てみましょう。
天然皮革
本革の製品は、適切に手入れをすればエイジング(Aging:革の経年変化) を楽しめ、長年使用できるのが特徴。
食用肉から切り取られる皮を使用する場合と、「エキゾチックレザー」と呼ばれる爬虫(はちゅう)類や鳥類などの皮を使用する場合の2種類に分けられます。
エキゾチックレザーに使用される希少動物は、レザー加工目的で育てられたり乱獲されたりと、さまざまな問題を抱えています。
また、天然皮革の生産における環境・人への負の悪影響も、代替素材としてヴィーガンレザーが注目されている理由のひとつです。
合成皮革
基布 (編物や織布といった基となる布地) に、塩化ビニルやポリウレタンなどの樹脂をコーティングして、本革のような質感を再現したものが、合成皮革。
厚みや張りがあり加工しやすいことから、質感や色合いなどのバリエーションを持たせることも可能。本革に比べると圧倒的に価格が安く、大量生産に向いており、商品の種類も豊富です。
人工皮革
本革を人工的に再現したもので、合成皮革とは異なり基布には不織布 (ナイロンやポリエステルなどの繊維を立体的に絡み合わせたもの) を使用し、ポリウレタンなどの樹脂をコーティング。
人工皮革で使用する不織布は、本革に似た繊維構造を持つため、より本物に近い風合いが出ます。
また、手法によっては本革と同じように加工できるのが特徴。合成皮革に比べるとやや高価ですが、本革と見分けがつかないほどの再現度です。
植物皮革
合成皮革や人工皮革が石油由来の原料を使って作られているのに対し、リンゴやサボテンなどの植物を原料にして作られるのが植物皮革。
地球環境に配慮し、限られた石油資源の消費を抑えるため、コーティングに使う樹脂も植物由来のものを使った完全にプラスチックフリーの製品もあります。
原料をリサイクルする工程があるため、やや高価ですが、動物愛護、環境配慮の両方の観点から、よりサステナブル・エシカルにつながるとして注目されています。
ヴィーガンレザーの特徴
ヴィーガンレザーには、原材料に化学繊維を使用するものから植物由来のものまでさまざまな種類がありますが、いずれも本革のように動物をあやめないのが特徴です。
- 軽い素材
- デザインや形、色も豊富
- 雨の日でも安心して使える
- 地球環境への負担が少ない
メーカーや製品によって異なりますが、ヴィーガンレザーは基本的に水に強い素材です。手入れ後は風通しの良い日陰に保管すると長持ちします。
また、ヴィーガンレザーのなかでも、天然素材が原料の皮革は、廃棄されるはずの搾りかすや葉が使われているので、化学繊維や樹脂を主な原材料とする合成皮革や人工皮革と比べて、より自然環境への負荷が低いと見られています。
本革を作る工程の一つである「なめし」は、動物の皮を製品化する際に化学薬品と大量の水が使われ、環境や人々に悪影響を与えます。ヴィーガンレザーはその点を解消できる素材としても有効です。
コンセプトとして動物愛護や環境配慮を掲げるブランド例
FOSSIL (フォッシル)
FOSSIL (フォッシル) は、オーセンティックヴィンテージとクラシックデザインをコンセプトにしたアメリカのライフスタイルブランド。
サステナブルな取り組みを継続的に行っており、ヴィーガンレザーの製品のほか、ソーラームーブメントを搭載した腕時計などの地球に優しいアイテムを拡充しています。
「ヴィーガンカクタストート(写真上)」は、サボテンが原料。
サボテンは少量の水で育てることができ、二酸化炭素も吸収できるという環境にやさしい植物。
強度や手触りは従来の合成皮革と変わらないものの、製造原価がかかるため、バッグなどの製品価格は本革を使ったものと同程度といわれますが、高級ブランドの使用に通用する良質なヴィーガンレザーとして評価されています。
※フォッシル KIER ヴィーガン カクタス トートは、こちら
良品計画
天然素材の活用や、環境負荷の低減を考慮した商品開発を進めている良品計画。
2023年2月7日から「植物由来の原料を使ったリュックサック」、「植物由来の原料を使ったトートバッグ」など合計12アイテムを発売。
「植物由来の原料を使った」シリーズは、合成皮革の塗布する原料にトウモロコシの胚芽から採れるオイルを使用。
一般的なポリウレタン樹脂などを塗布して製造する合成皮革のアイテムと比べ、原料となる石油の使用量削減につながるとのこと。
今後、植物由来の原料を使用した服飾雑貨シリーズを順次、全国の無印良品とネットストアで展開するそう。
i plant.
国内外のヴィーガンから支持されるヴィーガンレストランの老舗「アインソフ」のオーナー白井由紀氏が、もっと幅広い人たちに身近にヴィーガンを感じてもらいたいという思いでプロデュースした「i plant. (アイプラント)」。
植物由来を基調とし、日本人の職人が一点ずつ作る「限定受注生産」の各種バック。
素材は、食品ロス問題の解決に一役買う新素材の「リンゴ」、水性PU (合成皮革) +再生繊維。
「PU」とは、布地の表面にポリウレタン樹脂を塗布し、質感を天然皮革に似せた人工素材。「ポリウレタン」を意味する “Polyurethane” の略です。
PVC (ポリ塩化ビニールを意味する “Polyvinyl Chloride” の略) に比べると通気性があり、撥水性が高く手入れしやすいですが、メンテナンスの基本は乾拭き。
湿度の高い場所では、加水分解という化学反応 (表面がべたついたり、ひび割れたりする可能性) がありますが、本革に近い素材として、上質な合皮素材。PVCよりも、PUのほうが価格が高く、機能性や肌触りも上質です。
アップルレザーは、実に限らず、芯や種・木・ジュースまで余す事なく使える優れたヴィーガン素材。適度な光沢感があり、表面が滑らか。やわらかい触り心地で、軽いのが特徴。
自動車メーカー「フォルクスワーゲン」がシートの表面にアップルレザーを採用するなど、次世代の新素材として注目を集めます。
ANA Green Jet は、青森産リンゴジュースの搾りかすを活用した合成皮革を開発するスタートアップ企業「appcycle株式会社」の「RINGO-TEX」を座席のヘッドレストカバーに採用しています。
そのほかのレザー
ファッションやアパレル業界のサステナブル化が急速に進む中、既存の革製品の代替素材として多様なヴィーガンレザーが生まれています。
キノコ
キノコの菌糸体 (キノコの胞子から伸びる糸状の組織) を培養して、複雑に絡み合うことで革のような繊維を作り上げるヴィーガンレザー。
菌糸体は、2週間程度という短い期間で生長するため、天然皮革よりも生産効率が高いのがメリット。マスキン(MuSkin)が有名。
エルメスやアディダスといった大手ブランドも製品に採用しています。
パイナップル
パイナップルの葉の繊維を活用した、パイナップルレザー。
パイナップルの葉の繊維は丈夫で発色が良いので、衣服やシューズなどの製品に向いています。手触りは革とは少し異なった触感で、軽さ、独特のシワが新しいと注目を浴びています 。
Ananas Anam Ltd(アナナス アナム)社が開発した「ピニャテックス」が有名。
マンゴー、バナナ
リンゴと同様に、食品廃棄の問題にも貢献できるマンゴーやバナナ。
マンゴーレザーは、意外に耐久性も高く、色づけしたり防水・エンボス加工 (凹凸を生み出す加工) も可能。
バナナレザーは、通常廃棄されるバナナの茎部分の繊維を加工して作られ、耐久性と撥水性にすぐれ、生分解性 (せいぶんかいせい : 物質が微生物などの生物の作用により分解する性質) もあります。
ブドウ
ワインを造るときに出る搾りかすを使って作られたのが、ブドウのレザー。別名「ワインレザー」とも呼ばれる、柔らかく滑らかな質感が特徴。
イタリアのベンチャー企業「ベジェア(VEGEA)」が開発したブドウレザーは、2019年にイギリスの高級車ベントレー(BENLEY)のシートに採用されたことでも話題になりました。
ヴィーガンレザーのお手入れ法
ヴィーガンレザーは、通常の人工皮革と同じ手入れ方法でかまいません。撥水性はあるものの、なるべく濡らさないほうが、長持ちします。
高温多湿の日本では、人工皮革の表面が柔らかくなり、素材同士がくっついてしまう恐れがあります。通気性のよい場所で保管しましょう。
まとめ
既存の革製品の代替素材として、多様なヴィーガンレザーが生まれています。
サステナブルなライフスタイルの第一歩に、ヴィーガンレザーを取り入れてみたいと考えている方に、まずは前編としてヴィーガンレザーの種類や原材料、扱い方や製品例をお伝えしました。
後編では、地球を守るためにヴィーガンレザーを買いたいのに、逆に環境に負荷をかけている製品を選んでしまわぬよう「ヴィーガンレザーのいくつかの問題点」をお伝えします。
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動物からいただいている命を無駄にしない=廃棄物削減にもつながる、ともいえますが、動物を殺めないというヴィーガニズムの考え方からすると、本革製品は避けるべき対象になるんですね。