今、世界中で肉食需要がある一方、肉食を避け菜食中心の食生活を選ぶ人が増えています。
健康志向はもちろんですが、Nature 誌の記事によると、地球温暖化や環境破壊にかかわる世界の食料システムからの二酸化炭素(CO2)排出量は、全世界のCO2排出量の約 3 分の 1を占めると報告されています。特に畜産が原因のひとつです。
英国ベジタリアン協会の最高責任者であるリチャード・マキルウェイン氏は、肉を完全にカットすること=最も炭素に優しい食事はビーガンの食事とはっきり語っています。
今回は、日本でもよく耳にするようになった「ベジタリアン」「ビーガン」「フレキシタリアン」の意味、最新情報も含めてわかりやすく解説していきます。
【目次】
1.ベジタリアン(菜食主義者)の種類
2.ビーガンもベジタリアンの一種
2-1.べジタリアンの種類
2-2.精進料理はビーガン料理⁉
3.ビーガンになる理由
4.世界の動き
5.まとめ
ベジタリアン(菜食主義者)の種類
日本ベジタリアン協会によると、ベジタリアン (Vegetarian) という言葉は、「健全な、新鮮な、元気のある」という意味のラテン語 ‘vegetus’ に由来、英国ベジタリアン協会発足の1847年に初めて使われました。
産業革命(19世紀)の頃、マンチェスターの聖書教会の会員が行った運動(肉や魚、卵、乳製品を食べず、野菜や豆類、穀物などの植物性食品を中心にした食生活を行う運動)がはじまりとされています。ちなみに、卵や乳製品の摂取は本人の判断に任せられていたそう。
世界中に広まったベジタリアンですが、現代では、国や地域、個人レベルでの解釈まで含めると、ベジタリアンの定義は複雑です。
宗教、健康、動物愛護、環境問題や食料問題など、ベジタリアンになる理由もさまざまです。
ビーガンもベジタリアンの一種
ベジタリアンの食べ物は、野菜、果物、穀物、豆類、ナッツ、種、卵、乳製品、蜂蜜など。
逆に、ベジタリアンが避ける食べ物は、肉類、魚介類、昆虫、ゼラチンまたは動物性レンネット(動物由来の酵素の混合物、例:チーズ製造の際に使う凝乳酵素)など。
先に述べたように、どの程度まで厳密に避けるかは、人ぞれぞれです。
ビーガン(ヴィーガン/完全菜食主義者)は、卵、乳製品、蜂蜜を食べません。ビーガンは、ベジタリアンの一種ですが、ベジタリアンよりも厳格といわれる所以です。
蜂蜜を食べない理由は、蜂たちの食べ物を人間が搾取すべきではないというビーガンの考え方に基づいています。
フレキシタリアン(Flexitarian)は、ベジタリアンの入り口ともいわれるように、動物性タンパク質や動物性食品を完全に排除するわけではなく、摂取量を意識的に減らすスタイルです。
「ゆるべジ」などとも呼ばれ、日本のベジタリアンはこのタイプが多いといわれています。
ベジタリアンの種類
ビーガンやフレキシタリアン以外にも、ベジタリアンはいくつかに分類されます。以下、代表的なタイプを簡単にまとめました。
★ロー・ビーガン(raw vegan)
ビーガン食の中でも、生(raw)の調理されていない植物ベースの食品のみ〇。火を通すとしても、口にする食べ物は基本的に46度以上には加熱しない。
※ロー・ビーガンについての記事は、こちら
★フルータリアン (fruitarian/果実常食者)
動物由来の食品・植物由来の食品の一部は口にせず、果実のみ食べます。果実・種子については、収穫してもその植物自体の命に関わらないフルーツの実やナッツ類を食べる、一切の殺生をせずに食事を摂るスタイル。
★オリエンタル・ベジタリアン (oriental vegetarian)
基本ビーガンと同じ食生活で、さらに五葷(ごくん)と呼ばれるネギ類、ニラ類、ニンニク、ラッキョウなどの刺激が強い野菜を避けます。五葷に含まれる野菜は、時代や地域により定義が異なります。
★ラクト・ベジタリアン ( lacto vegetarian)
ラクト=乳・乳製品は〇、肉・魚類は×。
★オボ・ベジタリアン (ovo vegetarian)
オボ=卵・卵製品は〇、肉・魚類・乳製品は×。
★ラクト・オボ・ベジタリアン(Lacto ovo vegitarian)
卵・乳製品は〇、肉・魚類は×。
★ペスコ・タリアン (pescetarian)
魚類・卵・乳製品は〇、肉は×。
★ポーヨ・ベジタリアン(Pollo-Vegetarian)
ポーヨ=鶏肉のみ〇、魚類、卵、乳製品も〇。
★マクロビオティック(Macrobiotics)
玄米などの穀物、野菜、海藻類、豆類は〇、肉、魚類、乳製品、卵は△(避けるが、絶対に食べてはいけないものは無い)
身土不二(暮らす土地の旬のものを食べること)と、一物全体(自然の恵を残さず丸ごといただくこと)という2つの原則、食材の陰陽バランスが大切とされる。
精進料理はビーガン料理⁉
日本には、殺生を禁じる仏教の教えのもと、肉や魚を使わない「精進料理」があります。
野菜、海草など植物性食材で構成され、刺激が強く修行の妨げになるという理由で五葷も避けた、まさにビーガン料理です。
実は、日本人にとって、ビーガンは身近なものなのです。
ビーガンになる理由
ビーガンになる理由は、主に4つ(環境問題・動物福祉・健康維持・宗教)です。厳格にすべてを実践することはハードルが高く、いづれかについて実践する人のことをそれぞれ
・環境問題に配慮するビーガン
→エンバイロメンタル・ビーガン
・動物擁護を最も重視するビーガン
→エシカル・ビーガン
・健康目的のビーガン
→ダイエタリー・ビーガン
などと呼びます。
それぞれ、もう少し詳しく見ていきましょう。ちなみに、有名人やスポーツ選手の影響が理由でビーガンになったという人もいますが、ここでは省きます。
★環境配慮の観点
農林機構の報告によると、畜産は放牧の土地確保のため森林伐採や、牛が出すおならやゲップが温室効果ガスの原因になるなど、環境にダメージを与えると言われています。
“ビーガニズム (Veganism) は、食用・衣料用・その他の目的のために動物を搾取したり苦しめたりすることを、できる限り止めようとする生き方であると定義することができる。”
以下同、日本ベジタリアン協会のHPより抜粋
※ビーガニズム(Veganism)についての記事は、こちら
★動物福祉の観点
映画やSNS動画で、動物の殺処分などの事実を知る機会が増えました。生命の尊厳を旨とするアニマルライツも、再注目されています。
“ビーガンは動物に苦みを与えることへの嫌悪から、動物の肉(鳥肉・魚肉・その他の魚介類)と卵・乳製品・蜂蜜、動物由来のゼラチン・羊毛脂等を食べず、また動物製品(皮製品・シルク・ウールなど)を身につけたりしない人たち。”
★健康目的
ベジタリアンやビーガンの食事は心血管疾患や糖尿病のリスクを減少させると報告されています。たとえば、国立循環器病研究センターの研究によると、肉類の摂取を制限し、植物性の食品を中心とする食事が血圧降下に有効であることが分かりました。
“ダイエタリー・ビーガン (Dietary Vegan)は、ビーガン同様、植物性食品のみの食事をするが、食用以外の動物の利用を必ずしも避けようとしない。”
世界の動き
世界各国の、新しい時代に向けた取り組みを見てみましょう。
イギリスでは、100%植物性の素材でできている給食や、すべてビーガンの食事メニューを出すエシカルなパブが登場。
部屋のカードキーやリネン、床、カーペット、アメニティ、文房具、掃除用具にいたるまで、すべてプラントベース素材のものを提供するスイートルームを世界的大手ヒルトングループが提供しています。
アメリカも、ビーガン給食を出す学生食堂や、植物原料のハンバーガーを開発販売するチェーン店が増えています。
ソーセージの国というイメージの強いドイツですが、100%ビーガン素材で作るのスニーカーや、動物実験を行わない製品の開発が進んでいます。
気候変動対策として肉消費量を減らすことが求められる中、ドイツの議員らが肉の軽減税率廃止するなど、ビーガンを推進する動きは加速しています。
そのほか:ESG投資(環境・社会・ガバナンスを考慮した投資)が増える中、世界初のビーガンに特化した投資商品が誕生しました。ビーガンや気候変動に配慮した企業のみで構成される上場投資信託。
参照:IDEAS FOR GOOD【2022年最新版】Vegan(ヴィーガン)に対応するレストラン・食品・事例まとめ/https://ideasforgood.jp/matome/vegan-matome/
まとめ
健康や動物、地球のことを思いやったビーガンのライフスタイルは、正しく理解されておらず、そのためビーガンが日本で食事の選択をするのがまだまだ難しい状況です。
たとえば、野菜が多い和食も、鰹節や煮干しなどの動物出汁が使われていることなどにまで意識的になる人はわずかです。もちろん、ビーガンの定義や情報のあいまいさも認知を妨げる原因といえます。
しかしながら、国際的なイベントで海外からの訪日客が増える中、ビーガンのレストランやビーガン仕様の食品が見つけられず、コンビニのおにぎりやナッツ類でしのいでいる人々を無視することはできません。
世界基準からすると、日本の取り組みが遅れていることは事実です。日本においては、ビーガンへの理解、ビーガンにとっての選択肢をきちんと提供することが求められます。
最後に気になるニュースをもうひとつ。英国ベジタリアン協会の発表によると、 生活費の危機により、数千人が植物ベースの食品に向かう可能性があるといいます。
地球全体が抱える問題に、ビーガンという選択が大きく関わっているといっても過言ではないのです。
※食糧危機についての記事、こちらもご覧ください
2022年時点で、世界のベジタリアンの人口は約15億人、全体の人口の22%。ビーガンにも全く興味がない!肉を食べることはやめたくない!という方も、こうした現状や言葉の意味くらいはぜひ知っておいていただきたいと思います。