ビーガンのように、野菜しか使わない料理で挙がるのが「精進料理」。
和食の原点、僧侶のための食事、お作法を学ぶための特別な料理、喪が明けた日に食べる料理など、変化を遂げながら伝承される究極のサステナブル料理といえるかもしれません。
無駄をとことん省く一方で、手間はいっさい省かない……あわただしい毎日ですが、今まさに見直したい精進料理の教えやルールについてお伝えします。
より健康的で価値あるべジライフの参考にしてください。
【目次】
- 精進料理の歴史
- 精進料理は修行僧のためのもの
- 精進料理の代表的なメニュー
- もどき料理って?
- 精進料理に使ってはいけない食材
- 精進料理には肉が含まれていることもある
- 精進料理の味つけ
- 精進料理の作法
- ビーガンと精進料理は目的が違う
- 精進料理の良き教え
- まとめ
精進料理の歴史
肉を除いた食文化や菜食スタイルは世界中に存在しますが、そんな中、健康食のひとつとして日本の精進料理が注目されています。
精進料理は、アジアを中心に今なおその文化が根付き、たとえば中国や朝鮮半島では、野菜を煮たり炒めたりした簡単なものから、専門の料理人が高価な食材を使ったものまで、提供される場所や客層などによりバリエーションもあるようです。
精進料理を日本にもたらしたのは、鎌倉時代の禅僧栄西と道元という一説があります。
675年天武天皇により僧侶の肉食が禁止される以前から、一部の階級では肉や魚を避ける食習慣があったようですが、奈良平安時代に、精進料理の原型のようなものが寺院の正式な食事になっていたそう。
精進料理という言葉は、江戸時代の「和漢精進料理抄」という献立集に掲載されています。(ちなみに、献立の約9割が豆腐を使用したもの)以降、仏教の活動とは無関係に一般の料理屋が精進料理を提供するまでになりました。
精進料理は修行僧のためのもの
精進料理とは、美食を戒めて粗食をし、心身を浄化し悟りを開く、もともと仏教の戒律における修行のための料理です。
悟りを開くためには煩悩をすべて洗い流し、刺激物は一切取らないというのが精進料理の原則。
また、ぜいたくをすることは仏の道から遠ざかることを意味します。質素な食事を取ることで仏の道を歩き、仏に近づくことができると考えられているのです。
精進料理の代表的なメニュー
野菜の煮物
季節の旬の野菜を使用し、昆布や干し椎茸などで取った「精進出汁」で作るのが基本
ごま豆腐
通常の豆腐とは違い、胡麻をすりつぶして、水で溶いた葛粉と混ぜ合わせて固めたもの
野菜の天ぷら
動物性の食材は使うことができないため、 一般的な揚げ物で用いる卵は使用しない
けんちん汁
基本は、昆布や干し椎茸などを使った精進出汁で作るが、味噌仕立てで作る場合もある
もどき料理って?
がんもどき
もともとは肉の代用品として作られたものが、もどき料理。
たとえば、精進料理にとって大豆製品は重要なタンパク源であり、雁 (がん) の肉に似せて作ったという説のある「がんもどき」も、その名のとおり「もどき料理」です。
精進料理に使ってはいけない食材
五葷(ごくん)
ニンニク、ネギ、ニラ、タマネギ、ラッキョウ。これらは臭いも強く、煩悩を刺激するため精進料理では禁止されています。
五葷 (ごくん) を避けるビーガンを「オリエンタルビーガン」と呼びます。
精進料理には肉が含まれていることもある
野菜や海藻、豆類、山菜などをたっぷり使ったヘルシーな精進料理は、心にも体にもやさしい食事。ベジタリアンやビーガンもOKと考えている人も多いのですが、気をつけるポイントがあります。
仏教の僧は動物の殺生を禁止していますが、自身が殺生に携わっていなければ、肉を使ってもよいと考えられることがあり、そのため、精進料理には一部肉が含まれていることがあります。
精進料理は、仏の道を極めるための修行の一環であり、動物を殺めないために肉を食べないというビーガンの考え方とは根本的に違うので、ビーガンとして精進料理を食する際には、植物性食材のみの料理か確認することをおすすめします。
精進料理の味つけ
精進料理は、五味五法(5つの味付け、5つの調理法)という和食の基本にもとづいて調理されます。
五味
→甘い・辛い・酸っぱい・しょっぱい・苦いという5つの味
五色
→白・黄・緑・赤・黒の食材の色味
五法
→煮る・焼く・蒸す・揚げる・生で食べるという調理法
精進料理の作法
・お膳を前に背筋の伸ばして座る
・器や箸を持つときは必ず両手を使う
・そしゃく中は、箸をおく
・食事中は、おしゃべりしてはならない
・箸の上げ下ろしにも音を立ててはならない
・食後は、お湯やお茶・たくわんなどで器を洗い飲み干す
ビーガンと精進料理は目的が違う
精進料理は、仏教戒律に基づいています。
精進料理は、悟りを開いて仏に近づくことが目的であり、そのために無益な殺生をしてはならないという考えがあります。
一方のヴィーガンは、人間は動物を搾取することなく生きるべきだという考え方。
精進料理では、肉や魚は基本的には使ってはいけない食材としつつも、殺生されたところを見ていない、殺生されたことを聞いていない、自分のために殺生されたのではないという点をクリアしていれば、肉や魚であっても精進料理で使って良い食材になります。これが大きく違う点です。
もちろん、生きているものを大切にするという考え方は精進料理にも根付いています。
ビーガンの人でも安心して食べられる料理がたくさんありますが、すべての精進料理が植物性の素材だけを使用しているわけではないので注意してください。
精進料理の良き教え
・旬の食材を使い、それを活かしきる
→栄養価の高い旬の食材を、手間をかけて無駄なく調理します。
・様々な調理の工夫
→肉や魚に比べ、淡泊で飽きやすい味を補うために、素材の切り方や味つけ、調理法に工夫がこらされてきました。
たとえば、精進料理のメイン食材ともいえる大豆は、生食はできません。精進料理という制限が、逆に豆乳やみそ、しょうゆ、湯葉などといった大豆原料の食品に発展しました。
・器の種類と用途を知り、ちょうどよい量を盛る
→精進料理では、「飯椀」にはご飯、「汁椀」には汁物、「坪椀」には和え物、「平椀/平皿」には煮物や炒め物、「椿皿」には漬物というように、どの器に何を盛り付けるかも決められています。
食べ残しが無いよう、器に対してちょうどよい量を盛ります。
・精進料理の教えは「もったいない」文化
→食材を無駄にしないということは、むやみに捨てないこと以外にも、素材の長所を最大限引き出すということ。
たとえば、豆腐を作る際に大豆から豆乳を搾った後に残る搾りかす「おから」は、捨てずに調理すれば、おいしい料理に格上げできます。
・日本人の誇りと、心身の健康度を高める総合的な料理
→精進料理というと質素な食事というイメージがありますが、季節食材の味わいや食感を活かすことで味覚の感受性を呼び起こし、献立や食器の選び方、作法を通じて、お腹を満たすだけでなく、日本人の高い美意識と誇りが宿っています。
まとめ
現代日本でも、冠婚葬祭やお盆などに、精進料理を食べる文化が残っていますね。
「修行僧がほかの修行僧に食事を作ることで、己の修行とするもの」という定義もある精進料理。
今自分が食べているものが、明日の自分や数ヵ月先の自分をつくってくれているのは誰もが知っていますが、誰かを思いながら食事を作ったり食べたりすることで、心まで健やかになるとも言えます。
自身の暮らしや食生活を見直したいと思ったら、精進料理の教えを思い出してみてください。
新たな菜食の楽しみ方はもちろん、自分の心に向き合えるかもしれませんよ。
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