いきなり質問ですが、あなたは「植物油脂」についてご存じですか?
「植物性だからヘルシーなんじゃない?」
「いや、(油)と(脂)なんだから、カラダに悪いかも……」
どう感じるかはさておき、植物油脂とは、植物から採取した油脂の総称。パーム油もそのひとつです。
世界で最も使われている油「パーム油」は、生産にまつわるさまざまな問題を抱えています。
野生の生き物や自然環境を守りながら、生産者や消費者の生活も維持していくための取り組みは、現在どのように行われているのでしょうか。
日本では、あまり知られていないであろう「植物油脂」のこと、私たちの生活に直結している「パーム油」のこれからを掘りさげます。
【目次】
- ヴィーガンウェイパーの原材料
- 食用植物油脂(植物油脂、植物性油脂)とは
- パーム油が使われている食品や製品
- パーム油と核パーム油の違い
- 認証パーム油
- RSPOについて
- 企業の取り組み例
- 人工パーム油開発
- まとめ
「ヴィーガンウェイパー」の原材料
ヴィーガンウェイパー(VEGAN味覇)は、ペースト状の調味料として世界ではじめて英国ヴィーガン協会の認証を取得しました。
自炊をするビーガンは、万能調味料として頻繁に使っていらっしゃるかもしれませんね。
ところで、ヴィーガンウェイパーって、どんな材料で作られているのでしょうか。
食用植物油脂(パーム油(国内製造)、なたね油、ごま油)、食塩、たん白加水分解物、粉糖、酵母エキス、小麦粉、香味油、香辛料/乳化剤、酸化防止剤(V.E)、(一部に小麦、ごま、大豆、米を含む)
「植物油脂」という総称で記載することが出来る油はいくつもあり、実際にどんな油を使用しているのかは食品表示を見ただけでは分からない場合もありますが、ヴィーガンウェイパーのようにメーカーが自主表示を明確にしているものは、ひとまず安心できそうです。
ちなみに、複数の油が使用されている場合には、使用の割合が多いものから左順に表記されています。ヴィーガンウェイパーの主成分は、パーム油だったのですね。
食用植物油脂(植物油脂、植物性油脂)とは
植物油脂とは、「植物から採取した油脂の総称」。農林水産省が所管する農林物資の規格「JAS規格」では、食用のものについては「食用植物油脂」という呼称が用いられています。
さらに、植物油脂をより厳密に区別して表現する場合に、常温で液体状になる植物の油を「植物油」と呼ぶことがあります。
・常温で液体状の植物油→コーン油、綿実油、ごま油、米油、オリーブオイルなど
・常温で固体状の植物油脂(植物油を原料とする加工品、植物油加工品)→マーガリン、ショートニングなど
パーム油が使われている食品や製品
ポテトチップスやチョコレートなどの菓子、コーヒーフレッシュやカレールー、インスタント麺や調理済みの冷凍食品……。
パーム油は、私たちが毎日のように食べる食品以外にも、洗剤やシャンプー、化粧品や塗料などに使用され、挙げればきりがないほどです。
原材料名には必ずしもパーム油と明記されず、「植物油脂」「植物油」「マーガリン」「ショートニング」「乳化剤」「界面活性剤」などと記載されていることが多いため、ピンとこないかもしれません。
国内使用量を100%輸入でまかなう日本ですが、近年、バイオマス燃料としてパーム油を利用する事例も増えています。
パーム油と核パーム油の違い
「パーム油」はアブラヤシの実を絞って取った油で、「パーム核油」はアブラヤシの種を絞って取った油。成分や性質に違いがあるので、それに合う形で利用されます。
アブラヤシは、1年を通して実をつけ、単位面積当たりの収穫量が他の植物油原料よりはるかに高いです。
価格も安く供給が安定していること、用途も広く万能な油なので、世界中で利用されているわけです。
認証パーム油
パーム油生産にともなう問題は、今後どう解決されていくのでしょうか。
パーム油産業で生計を立てている生産者は多く、私たち消費者もパーム油にすっかり依存しています。そこで、持続可能なパーム油の生産と利用を目的に、2004年にRSPO(Roundtable on Sustainable Palm Oil)が設立されました。
日本語では「持続可能なパーム油のための円卓会議」と略される世界規模の非営利組織団体で、パーム油産業をめぐる7つのセクターの関係者(パーム油生産業、搾油・貿易業、消費者製品製造業、小売業、銀行・投資会社、環境NGO、社会・開発系NGO)のもと運営されています。
アブラヤシ・プランテーションの運営が原則と基準にそって行われているか、また作られたパーム油が加工、流通の段階できちんと管理されているかについて第3者機関がチェック。
基準をクリアしていれば「認証パーム油」として、商品にも認証済みを示すマーク(例:ヤシノミ洗剤の写真)をつけることで、他のパーム油と区別され消費者が選択できるようになっています。
WWFジャパン/RSPO(持続可能なパーム油のための円卓会議)認証について
企業の取り組み例
2004年にマレーシアで「ボルネオ環境保全プロジェクト」を開始。かつて熱帯林だった農地を買い戻して熱帯林に戻し、分断された熱帯林をつなぐ「緑の回廊プロジェクト」などを実施しています。
インドネシアの小規模パーム農園に対して、生産性向上のため農園の管理方法や技術の指導、作業場の安全確保のための備品の支給、消火器の設置などの支援を実施。2020年から30年までに約5000件の小規模農園の支援を計画しています。
人工パーム油開発
2020年春、マイクロソフト共同創業者のビル・ゲイツが、人工パーム油開発に投資するというニュースが話題になりました。
現時点で、地球上にパーム油ほど生産性の高い植物油はありません。2050年には98億人に達するともいわれる世界人口の増加に伴い、今後さらに生産は膨れ上がることも見込まれています。
他の作物、たとえば菜種や大豆などから今のパーム油に匹敵する量の油を採ろうとすると、現在のパーム・プランテーションよりもさらに広い土地が必要になり、森林破壊がもっと進むおそれがあります。
現行のパーム油産業が、健全な形でサステナブルな運用に変わっていくことも課題ですが、同時に、テクノロジーを利用したパーム油の代替となる人工パーム油の開発にも期待が寄せられています。
まとめ
パーム油がもたらす問題の認知度が低い日本では、企業の取り組みも自主性に任されているのが現状です。
製品を選ぶ際に、環境や社会に配慮して作られたものであるか関心を持つこと、RSPOマークがついた商品を積極的に選ぶこと、大切に使うことなどを意識したいですね。
最後に、できるだけ体にリスクがあると懸念される植物油脂を摂らないためには?
原材料に「食用精製加工油脂」「ショートニング」などの表示があるものを避ける、「遺伝子組み換え原料不使用」の製品を選ぶこと。ひとつの目安としてみてください。
※パーム油についての記事は、こちら
「マーガリンは体に悪い」と聞いたことはありませんか?
植物油脂=植物油を原料とする加工品に健康リスクがあるとされる点は2つ。製造過程で発生するトランス脂肪酸と、アレルギーの原因になったり、在来植物などの環境を脅かす可能性が指摘される遺伝子組み換え原料です。